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横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)1号 判決

原告

岩楯宜美

右訴訟代理人

山内忠吉

外三名

被告

鶴見税務署長

稲熊英一

右指定代理人

伴義聖

外八名

主文

一  被告が原告の昭和三八年分ないし昭和四〇年分所得税につき昭和四二年六日二七日付でなした各重加算税賦課処分をいずれも取消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その八を原告の、その余を被告の、各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和四二年六月二七日付でなした、

(一) 昭和三八年分所得税決定処分および重加算税賦課処分、

(二) 昭和三九年分所得税更正処分および重加算税賦課処分、

(三) 昭和四〇年分所得税更正処分および重加算税賦課処分、

はいずれもこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(原告)

1  原告は、昭和三八年分所得税の確定申告書を法定申告期間内に提出しなかつたところ、被告は原告に対し、昭和四二年六月二七日付で次のとおり昭和三八年分所得税決定処分および重加算税賦課処分をなした。

所得金額    九四三、二二二円

所得控除金額  一〇七、五〇〇円

課税総所得金額 八三五、〇〇〇円

税額    一三一、七〇〇円

重加算税     四五、八〇〇円

2  原告は、昭和三九年分所得税の確定申告を昭和四〇年二月二六日次のとおりなした。

所得金額    三二〇、〇〇〇円

税額      一、八四〇円

ところが、被告は原告に対し、昭和四二年六月二七日付で次のとおり更正処分および重加算税賦課処分をなした。

所得金額    五二一、〇五六円

税額     二一、三〇〇円

重加算税      五、七〇〇円

3  原告は、昭和四〇年所得税の確定申告を昭和四一年三月二日次のとおりなした。

所得金額    四〇〇、〇〇〇円

所得控除金額  三八〇、一九五円

課税総所得金額  一九、八〇〇円

税額      一、五六〇円

ところが、被告は原告に対し、昭和四二年六月二七日付で次のとおり更正処分および重加算税賦課処分をなした。

所得金額  一、六八三、六九六円

所得控除金額  三二二、六九五円

課税総所得金額一、三六一、〇〇〇円

税額    二七一、三〇〇円

重加算税     八〇、七〇〇円

4  原告は、被告の右処分(以下「本件課税処分」という。)について昭和四二年七月二六日被告に対し異議申立てをしたが、被告は同年一〇月二一日これを棄却する旨の決定をした。

原告は、同年一一月一三日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同国税局長は、昭和四三年九月二一日これを棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年一〇月二四日原告に送達された。

5  しかしながら、被告のした本件課税処分は、いずれも原告の所得を過大に認定した等の違法があるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否(被告)〈省略〉

三  被告の主張――本件課税処分の適法性〈中略〉

2 (五)(重加算税賦課処分について)

被告は、原告の本件課税処分により納付すべき昭和三八年分ないし昭和四〇年分所得税について、通則法六八条一項または二項の規定に基づき重加算税を賦課したが、その理由は、次に述べるような事情からみて、原告が、右各年分の所得金額を故意に過少に計算し、その計算に基づき過少申告をし(昭和三九年分および同四〇年分)、または申告をしなかつた(昭和三八年分)ために、被告の調査により実際の所得金額が把握されることを危惧し、取引にかかる証拠書類や銀行預金を秘匿し、原処分調査担当者(以下「調査担当者」という。)の質問に対しては虚偽または曖昧な答弁を繰り返していたものと認められるところ、このことは、通則法六八条一項または二項に規定する「課税標準又は税額の全部又は一部の隠べい」に該当するからである。すなわち、原告は、調査担当者が調査に際して、一〇回にも亘り原告または原告の妻等に面接し、所得の計算に必要な帳簿書類の提示を求め、種々質問を行つたのに対して、帳簿書類を提示しないばかりか、面接の都度調査時間を三〇分間に限定し、質問には一切応答せず、また、調査担当者の発言を録音するためにテープレコダーを持出すなど、調査忌避あるいは調査の延引を意図した態度をとり続け、銀行や得意先等に対する反面調査がほぼ終了する時期に至り、ようやく昭和四〇年分の工事収入にかかる請求書控の一部を提示してきたが、その際も、調査担当者の質問に対して、「住友銀行川崎支店以外には、預金は一切ない。」、「一般工事は昭和四〇年四月から始めた。」「昭和三八年分、同三九年分の請求書等は保存していない。」などと虚偽の答弁をし、その他の質問にも曖昧な応答を繰返し、積極的な協力をしなかつた。然るに、調査によれば、原告は、三菱銀行川崎支店に原告および原告の父である岩楯敬次郎名義の普通預金を有し、得意先から収入した小切手等をこれに預入していた事実や、一般工事を昭和三九年後半から始めていた事実が明らかになつたのであり、更に、原告は、本訴に至り、調査時に保存していないと主張して提示しなかつた昭和三八年分、同三九年分の雑工事収入にかかる請求書控を提出したのである。〈以下、事実関係省略〉

理由

一請求原因1ないし4の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、本件課税処分の適否について検討する。

1(一)  (推計課税の必要性について)

(1) 被告は、本件課税処分において、原告の総所得金額を各年分とも推計計算により算定して処分をなしているので、右推計課税の要件ないし必要性の存否につき検討する。

(2) 原告が建築業(大工)を営むいわゆる白色申告者であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告が、その事業所得の実額を把握するのに必要な帳簿書類を備付けていなかつたこと、同人が税務調査に非協力的で、同人に対する調査の最終段階に至つて初めて昭和四〇年分の工事金請求書控および経費等の支払についての領収書の一部を提示したに過ぎなかつたこと、右原告が提示した請求書控、領収書のみではとうてい同人の所得の実額を把握することは不可能であり、他にその実績の把握に必要な資料を得られなかつたこと、以上の事実が認められる。

(3) 右認定事実によれば、本件において、右推計課税の要件ないし必要性が存在したというべきである。

(二)  なお、原告は、「被告が、本件課税処分後に収集した資料に基づいて、右処分の適法性を主張・立証することは許容されるべきでない。」旨主張する。

しかし、いわゆる白色申告者に対する課税処分の取消訴訟においては、被告は、右処分の後に収集、作成した資料によつて処分の適法性を立証し、また処分の適法性を維持する理由として、右処分の段階において考慮されなかつた事実を主張することも、許されると解するのが相当であり(前段につき、最高裁判所昭和三六年一二月一日第二小法廷判決・裁判集民事五七号一七頁、後段につき、最高裁判所昭和四二年九月一二日第三小法廷判決・裁判集民事八八号三八七頁、同昭和五〇年六月一二日第一小法廷判決・訟務月報二一巻七号一九五頁各参照)、原告の右主張は採用できない。

2  (昭和三八年分決定処分について)

(一)  総収入金額

二、〇四三、八四七円

別表一(一)の取引先からの収入金額の合計である。

右のうち、小石惣一郎からの収入金額が一二、五〇〇円であつたことおよび三洋興業からの収入金額中一、八七三、三四七円分については当事者間に争いがない。

原告は、「その余の一五八、〇〇〇円分は、支払を得るべきものであつたが未収であつたから、これを収入金額として計上すべきでない。」とするが、〈証拠〉によれば、原告は、三洋興業から昭和三八年中に請負つた二、〇三一、三四七円の工事を完了し、右同額を同社に対して同年末までに請求済みであることが認められる。従つて、右金額は旧所得税法一〇条一項所定の「収入すべき金額」となるものであり、従つてまた同項所定の「総収入金額」の一部をなすものであるから、右証拠によれば、右金額中一五八、六二〇円分が同年中に未収であつたことが認められるものの、未収であつたからといつてこれを同年中の総収入金額から控除することはできない。

なお、右収入金額はいずれも雑工事にかかるものである(この点当事者間に争いがない。)。

(二)  必要経費(合計)

一、〇七五、三四六円

(1) (必要経費率三五%による推計の合理性の存否について)

被告は、その主位的主張において、原告の昭和三八年分の雑工事の必要経費率(但し、収入金額中に占める労務費を含まない原価と一般管理費の合計額の割合をいう。以下同様である。)が三五%であるとして、これにより、労務費を除く必要経費の金額を推計計算により算出しているので、右推計の合理性について検討する。

(イ) 〈証拠〉によれば、原告が昭和三八年ないし昭和四〇年頃営んでいた雑工事の殆どは、飯場等のプレハブ仮設物の間仕切り内装工事の下請(この点は当事者間に争いがない。)という同業者の少ない仕事であつて、原告と同様の雑工事を営む青色申告者が鶴見税務署管内には所在しなかつたこと、そこで被告は、当時の原告の取引先であつた三洋興業および松建工業から原告と同様に雑工事の下請をしていた同業者である森山義男(以下「森山」という。)、当時の三洋興業の工事部長として、また三洋興業が昭和三九年三月頃倒産後は、大建(同年七月設立)の代表取締役として、原告に工事の発注等をしていた古川繁松(以下「古川」という。)、当時の三洋興業の工事課長として、また三洋興業の右倒産後は松建工業の工事課長として、原告に工事の発注等をしていた長谷山博(以下「長谷山」という。)ならびに右三洋興業、大建、松建工業と同様仮設建物の建築施工、内装工事等を営む業者であつて、経験豊富な右事業の営業内容等に精通しているものと認められる者(以下「事業精通者」という。)四名、都合七名の者から、雑工事の必要経費率等右事業の内容について事情を聴取したこと、右同業者、事業精通者等七名の供述内容を検討すると、右雑工事における工事単価、一日職人一人当りの出来高(常傭い、受取り(請負)の別による差異)、工事材料の支給関係、経費の費目ならびに経費率等その事業内容について殆ど懸隔のないほぼ類似した内容の供述をしていること、そして右の各点について各(下請)工事業者によりさしたる差異があるものではないことが窺えること、これを前記必要経費率についてみると、事業精通者のうちの一名のみが「三割ないし四割くらいとなるだろう。四割を見れば十分である。」旨供述している(但し、同人は、間接費のうちに原告においては殆ど存在しないと推認される営業費を含めて右数値を出している。)ほかは、いずれも「ほぼ二〇%から三〇%の範囲内である」旨供述していること、右四名の事業精進者の選定につき、被告の恣意の介在を疑わせる事情は認められないこと、森山、古川ならびに長谷山について、格別原告に不利益に供述すべき事情は見当らないこと、以上の事実が認められる。

(ロ) 右認定事実に徴すれば、雑工事の必要経費率に関する右同業者、事業精通者等七名の意見は、経験的な、比較的漠然とした根拠に基づくものであつて、必しも詳細かつ正確な資料に基づくものとはいえない等の点において、やや問題がないではない。

しかし、前示のように、原告の営む雑工事は、飯場等のプレハブ仮設建物の間仕切り内装工事(下請)という同業者の少ない業種であつて、原告と同一税務署管内である鶴見税務署管内には同一業種の青色申告者が所在していなかつたのであるから、右のような事情の認められる本件においては、前示のような同業者、事業精通者等七名から聴取した事情を参考として、原告の必要経費率を決定することも、その方法においてやむを得ないところというべきである。かつ、右七名中には、原告と同一の元請業者から工事を下請しており、原告とほぼ同一の営業条件の下にあると推認される同業者の森山および右元請業者の従業員として原告に工事の発注等をしており、原告の営業内容を知悉しているものと推認できる古川ならびに長谷山が含まれ、また右三名および事業精通者四名都合七名の供述は、いずれも殆ど懸隔のないほぼ類似した内容のものであること等からして、その供述内容には相当程度の信慂性を認めることができるというべきである。更に、被告が採用した必要経費率三五%は、右七名の供述よりやや高めに見積つている(これは、原告に有利な結果となる。)のであるから、右推計方法は原告について特別の例外的事情が認められない限り、一応の合理性を有するものというべきである。

(ハ) 原告は、「出張仕事にかかる収入の約半分が、交通費、宿泊費、その他諸雑費として支出されたものであり、また、右出張仕事にかかる収入が総収入の三分の一をこえている原告のような場合には、出張に要する右経費を合算した金額(収入金額の半分)を予め収入金額から控除した残額に対し被告主張の経費率三五%を乗ずべきである」旨主張する。

しかし、出張仕事にかかる収入金額の約半分が、交通費、宿泊費ならびにその他諸雑費として支出されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず、被告主張の三五%の必要経費率は、前示のように労務費を含まない原価と一般管理費等の合計額の割合であつて、原告が収入金額から予め控除すべきであると主張する交通費、宿泊費等は、〈証拠〉(同業者ならびに事業精通者等からの聴取書)からも認められるように、右三五%の必要経費の中に含まれており、原告主張の計算方法は、経費が重複計上されることになるものであつて、右が合理的な計算方法であると認めるに足りる証拠はない。

その他、本件全証拠によるも、原告について、右雑工事の必要経費率三五%の合理性を左右するに足りる特別の例外的事情は認められない。

(2) (労務費を除く必要経費)

七一五、三四六円

そうすると、必要経費中の労務費を除く原価と一般管理費の合計金額は、前記(一)の総収入金額二、〇四三、八四七円に右必要経費率三五%を乗じて算出した七一五、三四六円である(一円未満切捨)。

(3) (労務費)

三六〇、〇〇〇円

労務費は、原告が職人内藤国光(以下「内藤」という。)に対し給与として支給した三六〇、〇〇〇円である。

原告は、「内藤に対し支払つた給与について四〇〇、〇〇〇円(うち、三六〇、〇〇〇円分については当事者間に争いがない。)である。」と主張し、その証拠として甲第三号証の三七を挙げる。しかし、右は、その記載からは「原告から内藤に宛てた昭和三八年一二月三一日付請求書(合計金額四四、〇〇〇円)」であつて、原告本人の供述するような給与の支払明細書というにしては奇異な体裁のものであり、また右の日付ならびに金額の点についても、その記載内容の信憑性につき疑問がないではない。のみならず、仮りに右の点は原告本人の供述のとおりとしても、右甲第三号証の三七は一二月分の給与の支払に関するものに過ぎず〈証拠〉によれば、職人の給与は日給であつて、月未に実働日数分一括して支払うというのであるから、右一二月分の給与の支払に関する甲号証のみによつて、昭和三八年中に原告が内藤に対し給与として四〇万円支払つたことを認めるには足りず、他にこれを認め得る証拠はない。

また、原告は、「職人の民永某に対し一六五、〇〇〇円、見習の伊藤武に対し三五、〇〇〇円をそれぞれ給与として支払つた。」と主張し、民永某については甲第三号証の三六および三八をその証拠として挙げる。しかし、〈証拠〉については、前記内藤に関する甲第三号証の三七と同様の理由でその信憑性につき疑いがあり、またこれのみで支払給与の実額を算定できるものでもない。却つて、〈証拠〉によれば、右民永(右証拠により原告主張の民永某であると認める。)が原告の職人として稼働していたのは昭和三九年四月頃から昭和四〇年三月頃にかけてのことであつて、昭和三八年中は原告の許で稼動していなかつたことが認められる。右伊藤武についても、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(4) (必要経費合計)

一、〇七五、三四六円

右(2)および(3)の合計である。

(三)  事業所得の金額(総所得金額)

九六八、五〇一円

(一)の総収入金額二、〇四三、八四七円から(二)の必要経費一、〇七五、三四六円を控除すると、九六八、五〇一円となる。

(なお、原告には、事業所得のほかに所得がないことは弁論の全趣旨より明らかであるから、右事業所得の金額が原告の総所得金額となる。他の係争年についても同じ。)

(四)  ところで、右のように原告の合計所得金額は、原告の主張する基礎控除等の所得控除の合計金額三一一、二五〇円(三一一、〇〇〇円との主張は計算誤りと認める。)をこえているのであり、かつ原告には配当控除額がない(弁論の全趣旨によりこれを認める。)のであるから、原告は確定申告書の提出を要するのであつて(旧所得税法二六条)、被告が通則法二五条により決定処分を行つたことは適法である。

また、配偶者控除および扶養控除に関する規定の適用は、これらの控除に関する事項を記載した確定申告書の提出が要件となつている(旧所得税法二八条)ところ、原告は右のように確定申告書を提出していないのであるから、被告が右決定処分において、所得控除金額として基礎控除額一〇七、五〇〇円を計上したのみで、配偶者控除および扶養控除を行わなかつた(弁論の全趣旨によりこれを認める。)のは正当である。

(五)  そうとすれば、原告の昭和四〇年分課税総所得金額は、総所得金額九六八、五〇一円から所得控除金額一〇七、五〇〇円を差引いた八六一、〇〇〇円(千円未満切捨て)であるところ、これは右決定処分にかかる課税総所得金額八三五、〇〇〇円を上回るものであるから右決定処分は適法である。〈中略〉

5  (各重加算税賦課処分について)

〈証拠〉によれば、原告およびその意向を受けた同人の妻は、税務調査に対し非協力的な態度を取り、調査担当者の質問に対しあいまいな応答を繰返し、領収証、請求書控等の原始記録の提示の求めに対しても、調査の最終段階に至つて初めて昭和四〇年分の請求書控および領収証の一部を提示したに過ぎず、「昭和三八年分と三九年分の領収証等はない。」旨事実に反する(原告は、本訴に至つて右両年分の請求書控の一部を証拠として提出した。)供述をなしていること、取引銀行についての質問に対しても、「取引銀行は住友銀行川崎支店のほかにはない」旨応答し、原告が昭和三九年において大建から収入した小切手を同人の父である岩楯敬次郎名義の三菱銀行川崎支店の普通預金口座に預入れした事実を供述していないこと、以上の事実が認められる。しかし他方、〈証拠〉によれば、原告は、本件係争年当時においては未だ大工として独立して間もない頃で税務申告等にうとく、前示のように白色申告者で帳簿書類の備付け、記帳等を行つておらず、また領収証等の原始記録の整備、保管も十分でなかつた(このようなことは、原告と類似の大工等においてはありふれたことであつたと推察される。)ところでもあり、右認定の税務調査に対し、非協力的な態度であつた事実のみをもつて、原告が、昭和三八年ないし四〇年分所得税の申告に関し、通則法六八条一項、二項所定の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した(昭和三九年および四〇年分につき)、あるいは右に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかつた(昭和三八年分につき)。」との事実の存在までを推認することはできず、また、取引銀行の秘匿の事実についてみても、昭和三八年および昭和四〇年については、原告が住友銀行川崎支店以外に取引銀行を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、かつ昭和三九年にしても、前示大建からの収入(小切手)を父親名義の口座に預入れているのは、九月に二件、一二月に一件金額合計一三九、〇〇〇円のみであつて、昭和三八年と昭和四〇年においては右のような事実が認められない(なお、右三九年についても、原告が三菱銀行川崎支店に自己名義の普通預金口座を有していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。)ことに徴しても、右が果して前示の「事実を隠ぺいし、又は仮装」する意図の下になされたものであるか疑いが残るところであつて、これと前示調査非協力の事実を総合してもなお本件各係争年分ともに前示通則法六八条一項、二項所定の事実を認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうとすれば、本件課税処分のうち各重加算税賦課処分は、いずれもその要件が存在しないのにかかわらずなされたものであり違法というべきであるから、いずれも取消を免れない。

三以上のとおり、原告の本訴請求は、各重加算税賦課処分の取消を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(加藤廣國 龍前三郎 川勝隆之)

別表 (一)〜(七)〈省略〉

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